悪貨は田中を駆逐する

ギターボーカルのタナカサトです

ハード田中

 全員、きがくるっています。

 4曲くらいの音楽が、延々ループしています。うち2曲はジングル的なみじかいもの。
 10店ほどある私のいきつけの店舗では、すべてそうです。

 中学生の時分、最初にいったときはめんくらいました。
 たえがたい苦痛であるようにおもわれ、はてしなく気が滅入りました。
 しかし、そうかんじたのも最初の一度きりでした。
 ほどなくして私は、「タッ タッタトン」というあの打ち込みのフィルをきいた瞬間に脳内物質が横溢するからだにつくりかえられてしまいました。

 あの店にいる人間は、全員きがくるっています。
 客はみな私とおなじ、光をうしなった幸福そうな目をしています。
 客でさえそうなのですから、日がな訊きつづけている店員さんの正気のほどは、いかばかりでしょうか。

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 浮遊感。
 自分でもはっきりとわかるのです。シモクラセカンドハンズイシバシ楽器U-BOXなどを物色するときの私とは、あしどりがちがうと。
 それらの専門店では、鵜の目鷹の目ともうしますか、野獣の眼光ともうしますか、殺気立った視線で商品をくまなくチェックしながら、足ばやに売り場をめぐるのです。

 あの店では、私の足はふらつきます。
 目にとまった値札にほあー、そうかあ、ま、そよねえと納得しながら。
 売り場を何周もします。

 全体に商品の回転がわるくて、たとえば一週間のインターバルで再来店してしまったとすると、竿モノなどはとくに、前回とほとんどかわっていません。
 それでも何周もまわります。ああやっぱ先週とかわってないなあ、とおもいながらまわります。確認してまわります。
 時計の針も私についてくるようです。

 父はそんな私の病気に理解があります。
 理解がありますので、もはや車のなかでテレビをみながら気長にまっていてくれます。
 昔はよくぶつかりましたが、いい父です。ハード親不孝。

 つまり、昨日の話です。実家恒例の地元ハードオフめぐり。まずは一店舗目。
 ここはレアもののブティック系ペダルが目につくところにおかれていたり、ハイエンドなパーツ類の新品があったり、売り場に楽器オタクの影がちらついています。
 店員のにいさんたちは実際、レジカウンターの奥でライブビデオをみながらもりあがっていました。
 しかし、こうなってしまうとほとんど楽器専門店です。ハードオフらしさがいちじるしくそこなわれており、正直いけすかないです。
 なぜかオヤイデのシールドが相場よりだいぶやすくおいてあったりして、良店でしかないきもするのですが、ここで買ってなるものかと謎の意地をはり、なにも買わずに店をでました。

 一時的な感情に左右されて、よくわからない状況におちいってしまう。そうしたことは、私のハードオフ人生にはよくあります。ハードオフ人生ってなんなんだよ、人がうまれてくる意味ってなんなんだろうな。

 都内某店では、POPの文言がどんどんはらだたしさをまとっていって、自分を制御できなかったことがありました。

 オタクが書いていることはあきらかなのですが、アー、ストレスのあまりほとんど記憶を抑圧してしまい、もはや正確な文言はおぼえていません。

 ただ、ギターにつけられていた「思わず口角の上がる一本です」というくだりだけは、いまでもはっきりと脳裏にやきついています。
 お、お、お、おまえの、おまえの脊髄反射インフォなぞどうでもよかったのでした。

 オタクのあがった口角。うかぶ玉の汗。クールジャパンの実相。日本の夏。

 ようするに、「至福の一本」ですとか、「この時代の空気を感じてください」ですとか、全体がそういった瘴気に支配されつつあるのです。
 ある時点での入荷分からそうなっていく様子がみてとれましたので、そのような方針転換がなされたということなのでしょう。

 私のハード乙女心は千々にみだれました。
 もはやハードでも、またオフでもありません。私のしっていたハードオフ某店はその日、しにました。
 これではハイエンド系の店特有の謎ノリのノリとなにもかわりません。

 ただ、回転がはやくてかよいがいがあるという意味では、依然最高の良店ではあるのです。くやしいけれど。
 ちかくに用があるといまだに毎回たちよってしまいます。くやしいけれど。

 ある春の日。思わず口角の上がる陽気でした。
 私はその店舗で、教ちゃんにプレゼントするためのギター練習用小型アンプシミュレーターをさがしていました。
 教ちゃんは緑色の上等なレス・ポールをもっています。カネにこまったらあれを換金して糊口をしのごうとおもっています。ギターだからいいんじゃないかな、ドラムじゃないから。

 まあ、VOX amPlugシリーズのいずれかであるなあ。そう当たりをつけていたのです。
 すると、たまたま中野梓モデル AP-AZUSAの美品がありました。思わず口角が上がる。
 付属品はなかったけれど、まあ、あずにゃんペロいしなあ、と、あっさりそれにきめました。

 正直にもうしまして、思わず口角が上がりがちな店舗で試奏におよぶのは気がひけたのです。私はだれの口角も上げたくはない。
 しかし、贈り物なのでいちおう完動品であるか否か、この手この耳でこの口角で、確認しなければなりません。

 口角とは、なんであったでしょうか。

 この話。
 流れからして、試奏時に最悪の店員さんに最悪の目に遭わされた、あるいは思わず口角の上がる店員さんに思わず口角の上がる目に遭わされた、という展開が予想されるとおもうのです。
 しかし、あいにくとそうはなりません。
 あらかじめもうしあげておきますが、私が一方的に最悪であった話です。店側にはなんの落ち度もありません。
 たんなるハードオフ懺悔録です。

 懺悔のつづきと、自分でもわすれかけていた昨日のおかわりハードオフについては、おぼえていたらまた明日。

 ハード人生、オフ口角。

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